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【Haptics】硬柔感について【Advent Calendar】

かれん (@km_anastasia) です. 12/22のHaptics Advent Calendarを担当します.

現在M2ですが,学部4年次から”柔らかさ”に関連した研究をしています. もし気になった方がいらっしゃったら,研究室のページ (http://kaji-lab.jp/ja/index.php?murata) を見ていただけると嬉しいです.

今回は,硬軟感(硬さと柔らかさ)の知覚メカニズムについて簡単に説明したいと思います! 普段Hapticsが専門ではない人にもわかりやすく説明するよう心がけたつもりなので,最後まで読んでいただけると嬉しいです!

※2019年12月22日 図と参考文献は後ほど追記します. 2019年12月23日追記済み f:id:km_anastasia:20191223005055j:plain

硬軟感って?

触覚において硬軟感はそもそもどういった役割なのでしょうか? 触覚分野においては,ある物体の素材の知覚には以下のような5要素があると言われています.

  • ミクロ粗さ
  • マクロ粗さ
  • 摩擦
  • 温冷
  • 硬軟

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物体の材質感・テクスチャ知覚に必要な5次元
*1

それぞれの言葉を具体的になんとなくイメージすると,ざらざら感,大きな凸凹感,乾湿感や滑り感,温かい冷たい,硬い柔らかいといった具合です. この5つの要素をもとに,人間は物体の素材や材質感を判断します.

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5要素のイメージ

このように硬軟感は材質感知覚における重要な要素の一つなわけです.これらの知覚はどれも複雑で完全に解明されているわけではありませんが,硬軟感は特に他の要素と比べても,知覚メカニズムに関して未解明な部分が多くあります.

3種類の硬軟感

一概に硬軟感といっても,何種類かの硬軟感があります.

例えば,『硬い物体』と聞いてどういったものを想像するでしょうか? これに関しては結構回答がわかれるかと思います. ある人は板や壁など微動だにしないもの,あるいは目に見えて変形しないものを想像するでしょう. またある人は,薄いアクリル板のような少したわむ程度の硬さを想像したかもしれません.

このようにそもそも硬さ柔らかさという概念が少しアバウトなもので個人間に差があるものです. ただ触覚の研究においては,硬軟感は大きく以下の3つに分類して考えられています.

  • 人が押しても変形しないくらいの硬さ
  • 押すと少したわむ程度の硬さ
  • 皮膚と同じくらいかそれより柔らかい

そして面白いことにそれぞれの知覚は全く異なるメカニズムであると言われています. そもそも人間は物体に触れる前に,視覚情報からこれまでの経験などに基づいて,物体のある程度の硬軟感を推測することができます. そこからどのように触れるかを考えます. 例えば,お餅やみかんのようなやわらかい物体の硬軟感を確かめる時に叩いて確認する人はいないですよね.そっと触れて確認するかと思います.

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みかんにはそっと触る

このように物体への触れ方が異なってくることから,知覚メカニズムも異なってくるわけです. では先ほどの3つを少し説明していきます.

①人が押しても変形しないくらいの硬さ

対象物体がかなり硬い物体であることがわかっているとき,人間は叩くようにしてその硬さを確認します.*2 この時物体から返ってくる振動をもとに硬さを知覚します.もっときちんと説明していくと減衰振動などの話になります. これはHaptics Advent Calendar1日目の記事 でこば (@koba_km7) が書いてくれています.

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人が押しても変形しないくらいの硬さ

②押すと少したわむ程度の硬さ

物体を押して少したわむ程度の硬さの物体の際は,押したりつまんだりして確認します. この時は物体からの反力やたわみが大きく起因して知覚すると言われています.*3*4*5

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押すと少したわむ程度の硬さ

③皮膚と同じくらいかそれより柔らかい

物体がかなり柔らかいことがわかっているとき,そっと触れることでその物体の柔らかさを確認します. この際は,物体と指表面の接触面積とその圧力分布の変化など皮膚の感覚がメインの機序として影響する*6ことが知られています.

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皮膚と同じくらいかそれより柔らかい

最後に

このように人間はいろーんな感覚を融合して物体の硬軟感を知覚します. そして先ほど説明した3種類はあくまで基本的な区別であって,実際は2つを組み合わせて知覚することもあると言われています. このようにまだまだ未解明なところが多い硬軟感の知覚メカニズムでしたが,簡単に説明させてもらいました!個人的には,こういった明確なメカニズムがわかっていないからこそ,意外なもので人間の知覚をだましてハックできたら面白いな~と思っています. 拙い文章でしたが,最後まで読んでいただきありがとうございました!

参考

より詳しく知りたい方はこちらにまとまっていますので,ぜひお読みください.名古屋大学の岡本先生が毎年更新されています.*7

*1:S. Okamoto, H. Nagano, and Y. Yamada, “Psychophysical dimensions of tactile perception of textures,” IEEE Transactions on Haptics, vol. 6, no. 1, pp. 81–93, 2013.

*2:A. M. Okamura, M. R. Cutkosky, and J. T. Dennerlein, “Reality-based models for vibration feedback in virtual environments,” IEEE/ASME Transactions on Mechatronics, vol. 6, no. 3, pp. 245–252, 2001.

*3:W. M. Bergmann Tiest and A. M. L. Kappers, “Cues for haptic perception of compliance,” IEEE Transactions on Haptics, vol. 2, no. 4, pp. 189–199, 2009.

*4:T. Irie, N. Fujita, H. Nakanishi, and M. Ohta, “Sensory perception mechanism on softness,” The transactions of the Institute of Electronics, Information and Communication Engineers. A, vol. J91, no. 1, pp. 162–171, 2008.

*5:F. E. van Beek, D. J. F. Heck, H. Nijmeijer, W. M. Bergmann Tiest, and A. M. Kappers, “The effect of damping on the perception of hardness,” in Proceedings in IEEE World Haptics Conference, 2015, pp. 82–87.

*6:A. Bicchi, E. P. Schilingo, and D. De Rossi, “Haptic discrimination of softness in teleoperation: the role of the contact area spread rate,” IEEE Transactions on Robotics & Automation, vol. 16, no. 5, pp. 496–504, 2000.

*7:粗さ・摩擦・硬軟・温冷の触知覚機序: 触感・テクスチャはこうして感じられている

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